オリジナルのドレミの歌を日本語にしたい

ラテン語文法の本を読んでいたら、あとがきに『「ドレミファソラシド」がラテン語起源だというのを書き忘れた』と書いてあり、そうだったのかと驚いた。楽器を弾くときにはドイツ式の「CDEFGAH」を使っていたので、ヨーロッパはすべてドイツ式で、ドレミは「ハニホヘトイロ」とおなじく日本独特の音階名なのかと思っていた。

Wikipedia に音名・階名表記についての記事があって、それによると「ドレミファソラシド」はイタリア式で、「聖ヨハネ賛歌」というラテン語の曲の歌詞に由来するそうだ。この曲は6つある節のそれぞれの最初の音が「ドレミファソラ」の音からはじまるので、それぞれの節の頭の歌詞「ドレミファソラ」をその音の名前としたそうである。で、その後の時代に色々あってシを付け加えたそうだ。(詳しくは、ただ「シ」を付け加えたのではなくて音階システム自体を再構築した結果音が一個増えたということらしい。)まあつまりこの歌はドレミの歌、「ドはドーナッツのド」と同じ原理だが、これは音階名の元になったということである意味オリジナルのドレミの歌と言える。

この歌詞を、それぞれの節の頭が「ドレミファソラ」になるようにしたまま日本語に翻訳できないだろうか?

この曲の歌詞と大まかな日本語訳は Wikipedia の記事に載っている。

Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famuli tuorum
Solve polluti
Labii reatum
Sancte Iohannes


あなたの僕(しもべ)が
声をあげて
あなたの行いの奇跡を
響かせることができるように
私たちのけがれた唇から
罪を拭い去ってください
ヨハネ様。

メロディーは YouTube にいくつかあった。この動画が比較的わかりやすいがいくつかの音が前の音と合体して書かれていて少し分かりづらい。

リズムを無視して音だけ書き起こすとこうなるようだ。

ドレファミレレ
レレドレミミ
ミファソミレミドレ
ファソラソファレレ
ソラソファミファソレ
ラソラファソララ
ソファミレドミレ

他の動画だと少しメロディーが違ったが今回は上記の動画に準拠していくことにしたい。

そして今の翻訳とは異なる翻訳を考えるために、元の歌詞の意味も調べていきたい。が、ラテン語の文法の本を一冊読んでみただけの全くの初心者なので Google翻訳の力を借りてやっていく。

まずは全体をコピーしてGoogle翻訳にかけてみたがなんだか全体的に Wikipedia の訳とぜんぜん違う・・・・

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一行目と二行目の「緩む可能性があります、エコーファイバー」がまったくもって謎である。まだ Google翻訳にはラテン語→日本語は早すぎたようなので英語訳にしてみた。

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日本語のときとあまり変わらないような気がするが、「斑点のある唇」は Spotted lips 「シミの付いた、汚れた」ということだとわかるので多少マシな気がする。それでも全体的に意味がとりづらいのはつながっている文章が改行されて分断されているからのようだ。

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一行にまとめてみたがやっぱりよくわからん。本を一冊読んだだけの拙いラテン語知識をフル稼働するに、ラテン語は名詞も形容詞も動詞も活用するのでどの単語がどの単語にかかっているのかを活用で判断でき語順が完全に自由なのだが、 Google 翻訳は単語間の修飾関係を把握しきれていないのかもしれない。

しかし後半の3つの節の意味はなんとなくわかる。検索したところSolve は solvere (緩める、解決する、解放する)の命令形のようなので

罪を解放してください
汚れた唇から
ヨハネ

ってことになりそうだ。

で、日本語訳を参考にするとその前の行の前半の「私たちの」はその次の次の節の「唇」を修飾して、後半の「あなたの」はその前の行の「Mira gestorum」、おそらくmiracle gesture =奇跡の行い、を修飾しているっぽい。こんなの節ごとに訳せないじゃないか。困ったものだ。まあでも仕方がないので残りの行も単語ごとにググりながらなんとかやっていく。

Ut queant laxis

Ut は英語の To
Queant は「可能だ、できる」を意味する動詞 queo の活用形
Laxis は「広い、ゆるい、自由」などを意味する形容詞 Laxus の活用形

Resonare fibris

Resonare は「音を鳴らす」を意味する動詞 resono の活用形
fibris は「ファイバー、フィラメント」を意味する名詞 fibra の複数形

またファイバーが出てきてしまった。単語レベルで訳すと Google 翻訳とほとんどかわらない・・・。日本語訳の「あなたのしもべ」がどこからでてきたのかもわからない。

もう一度これ以降の行を調べてみたところ、

Famuli tuorum の famuli は「仕えるもの、奴隷」を意味する famulus の複数形だった。Google 翻訳に惑わされてしまった。その後の tuorum は「あなたの」を意味する tuus の活用形だった。

残った謎は fibris だが、どの訳もこの単語をスキップしているようにしか見えない、誰もわからないのか?いろいろ調べてみたが、fibris を語源とするフランス語の fibre は「心の琴線」という訳があり、その直前のResonare、鳴らすとも繋がりそうなのでこれを採用したい。

実際にラテン語を訳すときにはそれぞれの細かい活用形をもとに何が何を修飾しているのかひとつひとつ断定していかないといけないわけだが、本を一冊読んだだけの私にはまだ荷が重いのでこのあたりで勘弁してほしい。ということで各行のわたしなりの翻訳は

広がっていくように
心を鳴らせるように
奇跡の行いを
あなたのしもべが
罪を解放してください
汚れた唇から
ヨハネ

というあたりになる。やはりこのままの語順では意味が伝わらないので、wikipedia の訳のように語順を入れ替えるのが妥当なのだろうか。するとこうなる

あなたのしもべが
奇跡の行いを
広がっていくように
心を鳴らせるように
罪を解放してください
汚れた唇から
ヨハネ

すると Resonare が目的語として Mira gestorum をとるので心の琴線がじゃまになってしまう・・・fibris のところ本当にわからない、誰か教えて下さい。更に意訳して

あなたのしもべが
奇跡の行いを
広がっていくように
心から鳴らせるように
罪を解放してください
汚れた唇から
ヨハネ

ってあたりでどうでしょうか…。思ったよりも難しい。まあでも要は、「聖ヨハネ様、あなたの奇跡の行いを歌えるように、汚れた唇から罪を消し去ってください」というようなことのようだ。さらにこれを「ドレミファソラ」で始まるようにやっていきます。できるのか?

試行 1 

どうかゆるしを
れいかのわたしの
みわざをたたえる
ふわくのうたが
そらにひびくよう
らくあるくちびるを
ヨハネ

まったくそのつもりはなかったが賛美歌みたいな歌詞になってしまった。れは「しもべ」のニュアンスを取り入れるために辞書で調べた「隷下」というあんまり使わない言葉を使うことになってしまった。あとファは「どれみのうた」でもとつぜん「ファイト」を持ち出すところからわかるように日本語で「ふぁ」から始まる単語がない(少なくとも私には見つけられない)のでかなり難しい。ファミマとかファミチキとかしか思い浮かばない。

あとは意外にも「ら」が難しかった。らから始まる言葉は「楽」とか「来年」とか 使いづらい上に意外と少ない。やっぱりちょっと雰囲気がかたすぎる気がするので、もう一度挑戦してみた。

試行 2

どこまでも
れいはいのうたが
みわざをたたえ
ふわりとひびくよう
そのくちびるの
らくいんをけして
ヨハネ

前回より聞き慣れない単語は減ったがたとえば「しもべ」のニュアンスは消えてしまった。すべてを入れてなおかつ各音の名前を頭に持ってくるのはかなり困難だ。まあでも二番目にはまあまあ満足である。難関の「ファ」を英語に頼らずオノマトペにするという奇策も思いつけた。

というわけでこれがオリジナルのドレミの歌です。 YouTube 動画のメロディーを参考にみんな歌ってみてね。

ちなみにいろいろ調べる上でこの曲の Wikipedia を英語でも読んでみたが、まったくおなじ試みを英語でやっていた人がいるようでその歌詞が載っている。が、英語はラテン語由来の単語も多くあるので日本語に比べたらかなり楽そう。Resonate とか Miracle とか、もとのラテン語の単語に相当する英単語がかなり似通ってるからそのまま使っている。ずるい。